私が担当させていただいている年間500件以上の手術の内訳で、最も件数が多いのが「眼瞼下垂」です。
眼瞼下垂の手術件数は、年間約200件です。
手術する時にものすごく多くのポイントに気をつけながら執刀させていただいています。
例えば、
①まぶたはどれくらい上げるとバランスが良いか(例えば80歳代の方にものすごいパッチリとしたまぶたを作ってしまうと、少し変になってしまいます。この場合はまぶたを上げすぎない方が自然です。)
②二重の幅(ご本人の希望をしっかりと伺い、理想に近づけます)
③二重の形(末広型か、平行型か)
④左右対称か
⑤まぶたのカーブはきれいか
⑥まつ毛の上がり具合(二重を作成するときに、まつ毛の上がり具合を微調整します)
⑦もう一度二重の幅(左右対称にするのはたった一度の確認では難しいです。)
こんな感じでしつこくきれいなまぶたを追求していきます。
これは私が気にするポイントですが、手術を受ける患者さんが気にするポイント、つまり患者さんにも協力していただくことがいくつかあります。
要は、「手術後の注意点」ということです。
手術後の注意点をしっかりと守っていただいた場合と守っていただけなかった場合では、出来栄えに大きな差がつきます。
今回は「眼瞼下垂術後の注意点」に関し、皆さんにお話ししていることを書いてみたいと思います。
①手術後48時間はしっかり冷やす。48時間以降は冷やさない。
眼瞼下垂の手術は、まぶたの手術の時に使う技術をすべて使います。
皮膚や筋肉を縫ったり切ったりします。
まぶたの皮膚は全身の中で一番薄いので、切ったり縫ったりした場所はどうしても腫れます(皮膚が薄いので腫れが目立ちます)。
しかし、やけどをしてしまった場合にすぐ冷やすとダメージが最小に抑えられるように、術後傷口をしっかりと冷やすことで腫れを最小限にすることができます。
反対に、傷あとが自分の力で治るには温かい環境が必要です。
傷あとが治りだすのは術後48時間以降です。
つまり、術後48時間以内は腫れを最小限にするために冷やし、48時間以降は傷の治りを促進するために温める。
腫れを抑えると術後の出来栄えも良くなります。
②洗顔洗髪は術当日から可能。
眼球の術後は数日間洗顔洗髪は控えていただくことが多いです。これは眼球内の血流が乏しく閉鎖空間なので、術後に水が眼球内に入ると雑菌が繁殖しやすいためです。
反対に皮膚の傷口は血流が非常に豊富です。血流が豊富であるということは、血液の中に存在する白血球などがしっかりと体を雑菌から守ってくれる、ということです。
ですから、傷口を濡らすことで入る雑菌を心配する必要はなく、むしろ傷口はしっかりと洗って清潔にしておいた方が良い、ということになります。
と、普段の説明でも必ずお話しするのですが、指示通りに洗顔して下さらない患者さんは少なくありません。
「傷口を触るのが怖い」ということで傷口を洗わない方、自己流の消毒をする方などがいらっしゃいます。
しかし!です。
傷口を洗わないとかさぶたや汚れがびっしりと貼り付きます。
そうすると、1週間後の抜糸の時にかさぶたを取らなければならず、傷口を引っ張ることになるため痛いです。そして血が出ます。
また先ほどもお話ししましたが、顔は感染に非常に強いです。
私も今まで数千件のまぶたの手術をしておりますが、感染したのはお二人、いずれも元々免疫系の病気を持っていた方でした。
つまり、免疫に異常がない患者さんはまぶたの手術後に感染したことはありません。
術後は、安心して洗顔してください。
③ 術後1週間と2週間は必ず受診してください。
そんなこんなで腫れも引いてきた術後1週間で抜糸をします。
もちろん長く糸を残していた方が傷はしっかりとくっつきます。しかし、2週間くらい糸を残していると傷口に糸の痕がついてしまいます。そのため抜糸は術後7日~10日で行うのが良いです。
また、最も大事なのは術後2週間の診察です。
まぶたがどれくらいまばたきをしているかご存知でしょうか?
1日2万回です。2万ですよ2万!
そのたびにまぶたは眼球表面上を行ったり来たりします。
黒目の大きさは直径11mmくらいなので、まぶたはたった1日で440m動いているのです。
ということは1週間で約3kmです。
ランニングシューズを履いていたって、これだけ走ったら靴ずれしますよね?
つまり、術中に完璧なまぶたを作っても、3キロも動くとどうしてもズレる場合があります。
この場合はまぶたの幅に左右差を生じ、100点でないまぶたになってしまいます。
左右差が出たまぶたは修正した方がきれいになりますが、手術した後の傷は時間が経過すると徐々にくっついていき、修復過程が落ち着くまでに大体6カ月かかります。
この間は傷あとの中で色々なことが起きていますので、1度くっついてしまった場合、再手術は6カ月くらいは控えた方が出来栄えは良いです。
そして、術後2週間以内なら傷あとはまだ完全にはくっついていないので、左右差の調整はわりかし簡単にできます。
つまり、早期の修正であれば2週間以内の方が良いので、2週間後に来ていただき完璧なまぶたと比べ足りないところはないかどうか患者さんと一緒に確認させていただくようにしております。
④ 術後診察は1カ月後、3カ月後、6カ月後
先ほどお話ししたように、まぶたはものすごい運動量をこなしています。
そのため、どうしてもまぶたの左右差や開き具合が変化していくことがあります。
術後1カ月を過ぎれば大きな変化はないことがほとんどですが、ごくまれに変化していく場合もあります。
また、二重の幅は術後2カ月まで少しずつ変化していきます。
そのため、二重の幅が落ち着く術後3カ月、そして傷の修復が終わる術後6カ月、ここはしっかりと確認させていただいております。