現在では年間約500件の手術を執刀させていただいておりますが、この中で一番多いのが「眼瞼下垂手術」です。
様々なところで啓蒙されているため「眼瞼下垂」という言葉はご存知かもしれませんが、詳しいことはどこまでご存知でしょうか?
今回は眼瞼下垂についてお話しさせていただきます。
1. まぶたの解剖
こちらを参照してください。
アンダーウェアやマスクのゴム紐のように挙筋腱膜やミュラー筋が伸びてゆるんでしまい、まぶたをうまく上げられない状態です。
加齢が最も多いですが、ハードコンタクトレンズや先天的なもの、そして動眼神経麻痺等の病気によるもの様々あります。
まぶたが下がってしまうと無意識におでこの筋肉でまぶたを上げるようになり、眉毛が上がります。
軽度な下垂であれば、手術以外の治療法が今後出てくる可能性はあります。
しかし、現時点では眼瞼下垂は手術でしか治りません。
眼瞼下垂の術式は、大きく分けると3つ存在します。
それぞれ説明していきます。
ミュラー筋を挙筋腱膜から剝離し、短縮して瞼板と縫い付ける術式です。
短時間で手術が終わる(両側40分くらい)ため、効率面で術者に好まれ流行しています。
「タッキング」というのは、「まわりから完全に剥離をすることをしない」という意味合いです。
この場合は、ミュラー筋を挙筋腱膜からは剥離しますが眼瞼結膜からは剥離していません。
これによるメリットは、剥離する手間を一つ省くために「手術時間の短縮」が得られることと、剥離する時に生じる出血や腫れが少なくなること、です。
デメリットは、術後の周囲との癒着範囲が少ないため理論上再発しやすく左右差が出る可能性が他の術式より高いことです。
挙筋腱膜をミュラー筋など周囲の組織からしっかりと剥離し、短縮して瞼板に縫着する術式です。
周囲からしっかりと剥離するため再発は少なく、きれいな重瞼も作成できます。
また、挙筋腱膜は血流が豊富ではないので出血も少なく、術後の腫れも強くありません。
以上より私は、眼瞼下垂の手術では挙筋前転術を第一選択としています。
しかし、デメリットも存在します。
それは「重度の眼瞼下垂には対応できない」ということです。
まぶたを上げる2つの筋肉のうち1つしか短縮してないわけですから、どうしてもまぶたの上がりが不十分になる場合があります。
このような場合に挙筋短縮術を選択します。
まぶたを上げる筋肉である挙筋腱膜とミュラー筋両方を短縮して瞼板に縫い付ける術式です。
メリットは、ほとんどすべての眼瞼下垂(最重症の場合は前頭筋つり上げ術を選択します)に対応できることです。重瞼もきれいに作成できます。
デメリットは、血流が豊富なミュラー筋を眼瞼結膜から剝がすために出血しやすく、術後の腫れもやや強めに出ることです。再発はほぼありません。
以上より、私は重度の眼瞼下垂の場合に挙筋短縮術を選択しています。
術式のメリットとデメリットを改めて比較すると↓のようになります。
ミュラー筋タッキングを批判するつもりは毛頭ありませんが、私の手術のコンセプトである「見た目と機能を両立させる」点から私はよほどのことがない限りミュラー筋タッキングは選択しておりません。
まぶたに糸を通すだけのいわゆる「切らない眼瞼下垂手術(治療)」が少しずつ出てきていますが、術後の仕上がりを考えるとお勧めしません。
簡単に言うと、切る手術後の出来栄えを100点とすると切らない手術後の出来栄えは10点にも満たないです。
また、「また下がる(再発)」「二重が作れない」「眼球が傷つく恐れがある」などなど、デメリットがとても多いです。
ですから、私は基本的に眼瞼下垂に関しては「切る手術」をお勧めしております。
技術の向上に伴い、術後の腫れも大分抑えられるようになっております。
昨今、業界はミュラー筋の生理的な機能が注目され、ミュラー筋タッキングが大流行しています。
果たしてこの風潮は正しいのでしょうか?
答えは「まだ分かりません」としか言えません。
一部で言われているような「眼瞼下垂の手術でミュラー筋を治療すれば、うつ病や肩こりなどが楽になる」効果もあるのかもしれません。
しかし、現時点では「世界の共通認識」ではないのです。
うつや肩こりに効果があるという論文はまだ一つもありません。
しかもミュラー筋タッキングは、「長持ちする、きれいな二重を作成する」という観点はほとんどありません。
なので、現時点では、私は「きれいなまぶたを長持ちさせる」ことができる挙筋腱膜前転術、挙筋短縮術を使い分けております。
動画はこちら↓